【(左から)田浦選手、桜井選手、田中選手】

「1球大事に」8強以上目指す

 三重県伊賀市治田に活動拠点がある「ミキハウス硬式野球部」が、10月29日に京セラドーム大阪で開幕する「第49回社会人野球日本選手権大会」に出場する。今年加入した元巨人の桜井俊貴投手(31)を中心に、強豪ぞろいの近畿地区予選で4枠しかない出場権を勝ち取った。本社がある大阪府八尾市からも程近い“ホームゲーム”に臨む。

渡邉選手

 1995年の創部以来、日本選手権への出場は21年ぶり3回目で、過去最高は2003年の4位。東京ドームで行われる都市対抗野球大会にも4年連続で5回出場しているが、同年の両大会出場は初めて。03年の日本選手権に外野手として出場した陣田匡人監督(45)は「(7月の)都市対抗が終わって今一度気を引き締め直し、8月は試合で投打がかみ合い結果を残せた。その流れのまま日本選手権予選に入れたのが良かった」と振り返る。

 9月にあった17チーム参加の近畿地区最終予選は、最初の代表決定戦で日本新薬(京都)に敗れたものの、敗者復活の代表決定戦で日本製鉄瀬戸内(兵庫)を終盤の猛攻で下した。予選で3試合に先発するなど全4試合に登板し、約400球を投げた桜井投手は「追う展開になっても巻き返せる雰囲気がチームにはある。投げていて安心感があった」と手応えを語る。

 「自分たちらしく、先制し逃げ切る試合ができている」と分析する一塁手の田中秀政選手(28)は、予選の打率が5割超と存在感をみせた。「両大会出場という記念すべき年に4番を打てることは自信になる」と話す。

松尾龍乃選手

 9月に23歳以下日本代表メンバーとしてW杯優勝を果たした田浦由亮選手(23)は、走攻守そろった新戦力で、「若手でものびのびプレーできる明るい雰囲気」のミキハウスでは入団直後から二塁手の先発に定着。代表チームでは先発出場の機会に恵まれなかったが、「ファーストストライクから積極的に打っていき、ピンチでも消極的にならない姿勢を学んだ」と更なる進化に注目が集まる。

 ミキハウスは10月31日午後6時から関東代表のENEOS(神奈川)と対戦する。主将の小河内健吾選手(26)は「1球を大事にできる選手が増え、今のメンバーで京セラドームへ行こうという気持ちが高まった。最低でもベスト8」と抱負を語った。

物流センターでの業務

リフトを操る田中選手

 ほとんどの選手・スタッフは、同社唯一の物流拠点であるミキハウス物流センター(伊賀市治田)で平日午前9時から午後1時まで勤務し、その後に隣接するグラウンドや室内練習場で練習に汗を流す。センターのスタッフの約3分の1を占める野球部員たちは、主力商品のベビー・キッズ向けファッションアイテムなどを、国内外約200か所の直営店などへ配送する業務を担う。

 入社直後は単純作業から始め、5年以上のベテランになれば管理業務も任される。今年からは野球部の新人も、新入社員とともに4泊5日の新人研修に参加するようになった。野球部マネージャーの森岡慎太朗さん(31)は「業務の場でもグラウンドでも、社会人として必要な振る舞いを身につけてもらうとともに、野球を中心にやってきた選手たちのギャップや疑問を解消していけたら」と目的を話す。

物流センター内で作業をする渡邉選手(左)

一緒に働くスタッフの関心

 搬入口では田中選手がフォークリフトを軽快に操り、渡邉宏祐選手(25)はパートスタッフとにこやかに作業に精を出す。時には発送した商品を店舗に出向いて開梱・陳列し、業務の流れを実際に経験することもあるという。

 合宿や遠征などで部員が不在になる場合も現場がストップしないために、特定のポジションに偏らないよう人員を配置し、数か月先までのスケジュールを組んでおく。公式戦を勝ち進めば「どこまで勝ち上がった?」「今度応援に行くわ」などと、一緒に働くスタッフたちの関心度も高まってくるそうだ。

商品を確認する松尾龍乃選手(中央)

 物流管理部の長尾充さん(37)は「業務と野球を両立すること自体が純粋にすごい。野球が好きなスタッフが多い社風も相まって、選手たちが責任感を持って仕事や野球に取り組める環境が整ってきた。社会人野球の常識にとらわれないモデルケースになっていけば」と展望を話した。

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