三重県伊賀市阿保の電器店「フクザワ」のショーウインドーには、50年以上前に製造されたブラウン管カラーテレビが飾ってある。電源を入れると今も現役で映り、犬の置物と一緒に旧初瀬街道を行き交う人々の目を引いている。
テレビは1971年発売の日本ビクター製で、画面サイズは20インチ。業務用規格のカセットテープを使用する録画装置と一体型で、高さ約100センチ、幅約85センチ、奥行き約60センチの木製の箱に収まっている。画面の右にはダイヤルが並び、その上には蓄音機を聞く犬「ニッパー」のブランドロゴがあしらわれている。
元は移転オープンの目玉商品
店主の福澤篤さん(69)によると、このテレビが製造されて間もないころ、店は同じ通りの別の場所から現在地に移転した。当時、店主だった父・次良さんにメーカーの営業担当者が「最新型なので、お客さんの目を引くはず」と展示を勧め、移転オープンの目玉商品として一番目立つ場所に飾った。
ところが、当時の価格で通常のテレビが15万円ほどだった時代に60万円近くしたためか、誰にも買われなかった。次々に新商品が入荷する中、3年後には倉庫代わりにしていた2階の応接間に移されてしまった。電源を入れる機会はほぼなく、30年以上が過ぎた。
福澤さんの子どもが成長して部屋が必要になり、10年ほど前にテレビを応接間から移すことになった。廃棄処分も考えたが、周囲から「もったいない」と言われ、思いとどまったという。
残すからには人に見てもらおうと、それまでデジタルハイビジョンテレビを置いていたショーウインドーで飾ることにした。販促のため過去にメーカーから提供されていたニッパーの置物も一緒に並べた。
映画の撮影にも
ショーウインドーに置いたブラウン管テレビは、道行く人から珍しがられたり、懐かしがられたりするようになった。映画の小道具を扱う業者の目にも留まり、昭和を題材にした映画の撮影に半月ほど貸し出したこともあった。撮影から戻ってきたテレビは、以前にも増して奇麗になっていたという。
福澤さんは「箱入り娘か箱入り息子か。テレビがたくさん売れた時代に、なぜか売れ残って行き場をなくした可哀想なテレビ。場所はとるし重いが、大事にしたい」と話した。