「りんたろう昆虫博物館」
若くして脱サラした三重県伊賀市千戸の浅野凛太郎さん(26)が、カブトムシの世界最大種・ヘラクレスオオカブトなどを飼育販売する事業を立ち上げた。店は「りんたろう昆虫博物館」と名付け、「昆虫を好きな人が気軽に集い、楽しめる場所にしたい」と思いを語る。
田園地帯に立つ、趣ある門構えが特徴の一軒家。ビニールシートを巡らして一定の温度に保った8畳の部屋には、天井近くまである棚にプラスチック容器などが整然と並ぶ。その中にはヘラクレスオオカブト、アトラスオオカブト、オウゴンオニクワガタの成虫と幼虫合わせて100匹ほどの昆虫が息づく。
浅野さんは園児のころ、祖父が捕まえてきた日本のカブトムシを見たのをきっかけに、昆虫の世界に惹き付けられた。以来、自ら森に行ってカブトムシやクワガタムシを捕まえるのが夏の楽しみだった。
小学生になると、ホームセンターで売られていた外国原産のカブトムシに興味を抱くようになった。特に巨大な角を持つ南米原産のヘラクレスオオカブトの形状に心を奪われたが、数万円の価格帯に手が出ず、代わりに比較的安価なアトラスオオカブトを親に買ってもらったという。
アトラスオオカブトは3本の角が特徴の東南アジア原産のカブトムシで、図鑑などを参考に飼育方法を勉強。小学生の高学年になるころには累代繁殖に成功するようになり、卵から幼虫、さなぎ、成虫へと成長する過程を観察して楽しんだ。
中学、高校時代には繁殖させたカブトムシをインターネットで販売することで、自らの小遣いを稼いだ。浅野さんの部屋は半分以上が昆虫のためのスペースと化し、常時50から100匹と共同生活する状態だったという。
高校卒業後は地元企業に就職。「社会人になる以上、仕事に集中しなければ」との思いから、昆虫飼育をやめることにした。
昆虫から離れる生活が数年間続いたある時、「自分が本当にやりたいことは何なのか。このまま時を過ごしていいのか」と考えるようになった。そんななか、ヘラクレスオオカブトに憧れた小学生時代の記憶がよみがえってきた。
地元経営者ら後押し
かつて手が届かなかったヘラクレスオオカブトを購入し、本格飼育を始めた浅野さん。続けるうち、「自分が得意なのはやはり昆虫の飼育。これを仕事にしたい」と25歳での退職を決断した。起業に際し、趣味の格闘技などで知り合った地元のリゾート施設経営者らから後押しを受けた。
ヘラクレスオオカブトは、大きさ形によって数千円から数十万円で取引されている。飼育下個体の大きさのギネス記録は近年、更新が続き、2022年現在の最大記録は宮崎県のブリーダーが育てた全長18・28センチとなっている。浅野さんは「大きな個体を育てるには土や餌、温度、血統、技術が大事で、幼虫の期間にどれだけ成長させるかが鍵。私も19センチ、20センチのヘラクレスをいつか生み出したい」と意気込む。
「買わなくても、見に来て楽しんでもらえたら」との思いから博物館と名付けた店は、自宅の蔵を改装して販売スペースとした。昆虫は店で展示販売する他、ホームページ(https://insect.rintaro.work/)でも販売している。
2023年8月26日付850号1面から