ワゴン車を改造した移動手術車での猫の不妊去勢手術が11月中旬に三重県名張市内で行われ、伊賀地域や近隣市から集められた計20匹が手術を受けた。過剰繁殖を予防するため不妊去勢手術を専門に行う動物病院「にじのはしスペイクリニック」(岐阜市)院長の髙橋葵さん(40)に地元のボランティアが依頼し、県内で初めて実現した。
スペイクリニックは、野良猫に不妊去勢手術を施し、元の場所で1代限りの命を全うさせる「TNR活動」の広がりに伴って需要が高まっているが、都市部に比べて地方には数が少ない。
長野県で行政獣医師を務めていた髙橋さんは、殺処分される猫を減らそうと2020年に同クリニックを設立。手術台や麻酔器など専用の医療機器を備えた移動式手術車を導入し、猫の問題を抱える地域に自ら赴いて、TNR活動を根付かせる活動を展開してきた。
現在は岐阜、長野、愛知、滋賀の4県4か所でそれぞれ月1回、出張手術を実施。1回の出張で最大30匹の不妊去勢手術に対応したことがあるといい、本院を含めてこれまでに手術した猫の数は10月末までの約2年半で6000匹に上るという。
今回、髙橋さんを名張に招く活動の中心になったのは、市内で開かれる里親会に参加する保護猫ボランティア、奥村祥仁さん(56)=津市美杉町太郎生。奥村さんによると、県内では県動物愛護推進センター「あすまいる」(津市)などで不妊去勢手術を無料で行う取り組みがあるが、実施までに時間がかかったり、受け入れる数が十分ではなかったりするため、ボランティアの中には保護した猫の不妊去勢手術を動物病院で自己負担して実施するケースがある状況だという。
一般的な動物病院での手術費は、1匹1万5000円から3万円ほどかかるのに対し、髙橋さんのスペイクリニックでの手術は雌が7700円、雄が6600円と安価に抑えられている。ボランティアの負担軽減になればと、出張手術の誘致を働き掛けてきた。
出張は、手術を受ける猫が一定数いることが条件。髙橋さんは「過剰繁殖問題の解決には、不妊去勢手術が身近になる事が大切。必要として頂けるなら、名張にもまた出張したい」と話す。奥村さんは「不幸な猫を増やさないため、利用を継続していきたい。賛同して頂ける方には、協力をお願いしたい」と呼び掛ける。
問い合わせは奥村さん(080・3619・3257)へ。
20年度は全国で1万9705匹の猫が殺処分
環境省によると、雌猫は生後4か月から1年で出産が可能となり、計算上では1匹の雌猫が2年で80匹以上に増えるほどの強い繁殖力を持つ。全国の猫の殺処分数は、15万2729匹だった2010年度に比べて、20年度は1万9705匹と減少しているものの、まだなくなってはいない。
2022年12月10日付833号26面から