植物由来のせっけんや家庭用洗剤を製造する老舗メーカー「木村石鹸工業」(大阪府八尾市)が、三重県伊賀市治田に三重伊賀工場「IGA STUDIO PROJECT」を設立した。注目が高まる自社ブランドのメイン工場であるとともに、魅力を発信する「オープンな工場」を掲げている。
せっけんは、主に油脂とアルカリを反応させることで作られる。1924(大正13)年創業の同社はヤシの油脂を熱で反応させる、職人による昔ながらの「釜たき製法」で製造しており、国内では数が少ないという。かつては生協向けのOEM(相手先ブランドによる生産)と銭湯などで使われる業務用の製造が中心だったが、近年は自社ブランドの展開に力を入れている。
転機となったのは、4代目・木村祥一郎社長(50)の事業継承だった。木村社長は東京でIT企業を18年間経営した後、家業の木村石鹸工業に2013年に戻り、下請けとして数社に依存していた経営環境を改善するべく変革を進めた。
15年にはインテリアに溶け込むデザイン性にもこだわった洗剤シリーズ「SOMALI(そまり)」、19年には「髪を本気で良くする」を突き詰めて開発したシャンプーとコンディショナー「12/JU‐NI(ジューニ)」を発表するなど、長年の製造ノウハウを活用した新商品を次々に生み出した。
現在の年商約15・5億円のうち自社ブランドは約5億円を占め、ここ2年間は前年比200%の成長を遂げている。3年後には、自社ブランドの売り上げを年間10億円にする目標を掲げ、更なる成長を目指している。
そんな同社の三重伊賀工場は、「『モノを作る』から『楽しいを作る』へ」をコンセプトに建設。本社以外に設けた初の製造拠点で、既存の建物を改修して20年1月に稼働開始した。自社ブランドを中心に製造しており、会社全体の生産能力は5倍に向上したという。
マネジャーの古澤陽さん(50)は「工場じみた工場ではなく、消費者とつながる場にしていきたいというのが我々の思い。『プロジェクト』らしく、さまざまな試みをしたい」と話す。工場敷地は約2万3000平方メートル保有しているが、まだ1万平方メートルほどしか使っていない。同社は工場の増築などを見据え、伊賀の新拠点を更に発展させていく方針だ。
同工場では稼働当初から地元の若者の採用に力を入れており、現在の従業員約20人のうち半数以上が20代。技術開発部兼広報の喜屋武綾香さん(21)=四日市市出身=は、2年前にSNSで「12/JU‐NI」を知り、髪の悩みを解消できたことがきっかけで同社に興味を持ち、1年前に自動車メーカーから転職した。「働き始めてから商品に対する会社のこだわりを深く知り、ますます好きになった。自信を持っておすすめできる」と語る。
「スタジオ」と名付けた工場名に対し、従業員は外から来た人をもてなす「キャスト」と位置付ける。工場内には美術館のような見学通路が設定され、直径約1・5メートル、深さ約2メートルの大釜を使う製造や充填、計量、パッケージングといった一連の工程や従業員の動きは、ガラス越しに見ることができる。
せっけんの製造法や同社商品の製造工程を知ることができるこの見学通路は、竣工時には既に整備されていたが、これまではコロナ禍で見学の受け入れを見合わせていた。今後は状況を見ながら、地元小学生の社会見学などから受け入れていく予定。見学のみにとどまらず、イベントや体験の場としても工場を活用し、ユーザーと企業がつながる場、地域活性化の拠点を目指していく。
2022年5月14日付819号15面から