多彩な世界に触れて
昨年4月15日に87歳で亡くなった画家の森中喬章さん(伊賀市予野)の追悼展が、4月13日から29日まで市内のギャラリーで開かれる。コロナ禍で別れの場に立ち会えなかった人も多いことから、一周忌に合わせ、長男・真行さん(65)と、家族同然に親交のあった作家仲間らが中心となって準備が進められている。
代々続く農家の長男として生まれ、名賀農学校(現・名張高)で美術教員だった市橋武助さんから洋画の基礎や技法を学んだ。18歳の時に三重県展で初入選後、具象、風景から抽象画まで幅広い作品を世に出すとともに、伊賀地域を中心に美術文化協会や「NH展」などさまざまな団体の活動、絵画・スケッチ教室での指導に携わってきた。
「秋に88歳展を開こうと思って準備してるんで、見に来てさ。あんたと2人展もやりたいなあ」「ほんなら先生、来週にでも見に行きますわ」―。7歳のころから児童画教室で森中さんに教わり、60年以上師事してきた花岡洋三さん(68)(伊賀市阿保出身、東大阪市在住)は、亡くなる3日前の森中さんとこんな会話を交わしていた。葬儀の後、森中さんが個展のために押さえていたギャラリーの予定を半年延期し、追悼展に向け準備が始まった。
個展・2人展・グループ展
会期を3つに分け、18日までが森中さんの個展、19日から24日は花岡さんとの2人展、25日からは伊賀地域と美術文化協会近畿地区の作家仲間22人とのグループ展に。個展は「あれも これも」という副題の通り、初期から晩年まで、具象から抽象まで、多岐にわたる森中さんの作品を見ることができる。
アトリエを兼ねた自宅隣のギャラリーには、これまでの作品や、親交のある作家らの作品が所狭しと並び、絶筆と思われる描きかけのキャンバスもあった。3月下旬、準備のために訪れていた花岡さんは「どんな作品になるか、見てみたかった」とつぶやいた。このキャンバスは、1950年の作という初期の作品とともに個展で並べる予定だ。
生涯にわたって伊賀と芸術を愛し、いつもたばことコーヒーを欠かさなかった。そんな森中さんへの線香の代わりか、今はほとんど喫煙しない花岡さんが、ここへ立ち寄った時だけは仏壇のたばこに火をつけるそうだ。「親しい仲間もお別れができずに1年が経った。改めて先生をしのび、多彩な世界に触れてもらえたら」と来場を呼び掛けている。
会場は同市上野福居町のギャラリー「アートスペースいが」。時間は午前11時から午後6時(最終日は同4時)まで。入場無料。
問い合わせは同ギャラリー(0595・22・0522)まで。
2021年4月10日付793号3面から