令和の「名工」とデジタル技術で

 名張市赤目町丈六の丈六寺(矢持宝裕住職)境内にある、鎌倉時代のものとみられる市指定有形文化財「石造五輪塔」の保存修理工事が始まった。専門家の指導のもと、全国的にも珍しい工法をとり、同市桔梗が丘5の石材会社社長、谷本雅一さん(44)が施工する。「黄綬褒章」や「現代の名工」に選ばれた技術とデジタル技術を併用し、700年以上前の当時の姿を再現する。【工事の無事を祈る矢持住職(右)と山川さん=名張市赤目町丈六で】

戦火で欠損やひび

 修理を指導する県文化財保護委員の藤澤典彦さんによると、五輪塔は主に供養を目的に作られる塔の一種で、「地水火風空」の5つの要素を表す部分から成る。同寺の五輪塔は高さ約2・3メートルの花こう岩製で、制作した年を示す「正応4(1291)年」の銘が刻まれていることから市内最古の五輪塔とされ、東大寺の初代別当・良弁僧正の供養塔と伝わる。

 同寺は天正伊賀の乱で全焼したと言われ、戦火の影響などで塔の一部が欠損したり、ひびが入ったりしていた。また、欠損部分を後方に回しているとみられ、梵字が本来の向きと変わってしまっている。現状のままでは地震などで倒壊する恐れもあるため、矢持住職は修理を希望。5年ほど前から市教委に掛け合うなどし、ようやく着工する運びとなった。

さらしを巻いて保護した五輪塔の解体作業を進める谷本さん(左)ら=同

 修理には藤澤さんの他、石造物の研究者で文学博士の山川均さんが指導者として参加。施工する谷本さんは、山川さんらとともに2016年に京都府大山崎町の宝積寺で、倒壊の危険があった「九重層塔」(同町指定文化財)を修理した実績があり、今回も同様の工法をとる。

鎌倉職人と同じ工具で

 着工日となった10月3日は、構成する4つの石材をそれぞれさらしで保護した後、1つずつクレーンで釣り上げて解体。修理を行う谷本さんの工房に運んだ。レーザーを使った3D計測で立体画像を作成しながら修理を進め、欠損部分は同質の石材で補填、ひび割れは薬剤を浸して強化する。元々の風合いを守るため、機械に頼らず鉄ノミなどの当時と同じ手作業の工具で加工していく。

 山川さんによると、今回の修理方法は、全体の重量バランスを回復し、地震に強くなるなどの利点があるという。「3D計測を併用しつつ、欠損部分を補って修理する例はおそらく日本で初めて。谷本さんの技術があればできる」と話す。谷本さんは「令和の職人として、美しく仕上がるよう、精いっぱい力を尽くしたい」と話していた。工期は来年3月末までの予定で、総事業費は約500万円、市の文化財保護保存補助金32万円が交付される。

 寄進の問い合わせは同寺(0595・64・3226)へ。

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