【サウジアラビアの都市ダーランのイベント会場で高台を用いた作業を実演する藤岡さん(本人提供)】

サウジアラビアの日本文化イベントで「伊賀くみひも」の技披露

 「伊賀くみひも」が、遥か異国の地で多くの人々の心をつないだ―。三重県伊賀市上野農人町の藤岡組紐店4代目、藤岡潤全さん(47)が、サウジアラビアで開かれた「日本文化の日」に招かれ、繊細な手仕事の妙技を披露した。帰国した藤岡さんは「現地の人たちの手作りへの理解がすごくあり、本当にうれしかった」と語った。

サウジアラビアの都市ダーランのイベント会場で多くの来場者を前に実演する藤岡さん(本人提供)

 藤岡組紐店は、昭和初期の創業。藤岡さんは帯締め職人で、昔ながらの木組み台「高台」を用いた制作活動の他、全国の百貨店などで実演販売も行っている。

 異国の地での挑戦は、2023年5月の1本の電話から始まった。店番をしていた母親が受けたのは、サウジアラビアの会社からの突然のオファー。「最初は驚いた。欧米やアジアならまだしも、まさかの中東。少しためらいもしたが、面白そうだなと感じて挑戦することにした」と藤岡さん。コロナ禍で国内の催事が縮小される中、新たな舞台への扉が開かれた。

 参加したのは、首都リヤドで開かれたeスポーツ大会に併設された、日本文化の紹介イベント。「会場の広さも分からず、持っていく道具も判断が難しかった。現地の税関では高台の部品を不審に思われ、スマートフォンで実演動画を見せてやっと納得してもらえた」と苦笑する。

アブドルアジーズ王世界文化センターの前に立つ藤岡さん(本人提供)

 昨年11月に同じ会社から再び連絡があり、2回目の出展が決定。1月23日から2月8日までの間、東部の都市ダーランにあるアブドルアジーズ王世界文化センターで開かれたイベントで、藤岡さんの伊賀くみひもの他、生け花や金継ぎ、茶道、書道、和楽器演奏、寿司作りなど、多彩な日本文化が紹介された。多い日には1日3万人以上が訪れたという。

「素晴らしい仕事」

 今回は藤岡さんにとって、日本国内でも経験のない屋外での出展となった。印象的だったのは、行き交う多くの来場者が次々に足を止め、スマートフォンを向けて熱心に撮影する光景だった。

 「あなたの仕事は素晴らしい」「とても美しい作品だ」。言葉は通じなくても、藤岡さんの手仕事の美しさは現地の人々の心に強く響いた。何度も足を運ぶ人、インスタグラムを通じて温かい音声メッセージを送ってくれた人もいた。

 藤岡さんは「日本の伝統文化への海外の注目度は、想像以上に高い。そして何より、多くの人とのつながりが生まれたことが良かった」と話した。

店の前でくみひもを手にする藤岡さん=伊賀市上野農人町で
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