【新しいデザインの試作品を紹介する谷本社長】
斬新さ・高級感
自然石で作られた重厚感のある「スマートフォン用充電器」と、茶葉の香りを楽しむ「茶香炉」の試作品の数々。三重県名張市桔梗が丘5番町の石材加工・販売、株式会社谷本石材の店内の一角に置かれている。
これは百五銀行が呼び掛けた、県内外のものづくり企業の商品開発を支援する「HDV(百五デザインビジョン)」を利用して制作されたもの。百五銀が一般消費者向けに新商品を開発している取引先に対し、産業デザイナーを引き合わせ、取引先の持つ技術を生かしながら異分野への販路・販売拡大を後押ししていく事業で、デザインを含め、商品開発に伴う費用は全て取引先が担う。
同社の谷本雅一社長(48)は「全く新しいデザインの商品で、加工するための専用工具も作り、失敗を繰り返しながら試作してきた。その時間と労力は限りなく多く、とても採算は取れないが、新たなデザイナーと知り合うことで、名張という地域の枠や石材業界を超えて新しい仕事にチャレンジできる絶好の機会だと思っている」と語る。
充電器は、スマートフォンなどの充電用USBポートで、曲線美が映える斬新なデザインとともに、自然石の持つ高級感がアピールポイントで、ターゲットは富裕層だという。飲食店のカウンターやホテルのロビー用としての需要も見込まれる。価格は未定。
また、茶香炉は底面にろうそくを差し込み、上部に茶葉を置いて使う。まだ初期の試作段階で、今後改良が加えられる。わずか5㍉程度の薄さに仕上げる他、香りの通る穴の構造にも高い技術が必要で、「誰もが挑戦しないこと。これまでになかったものを作りたい」と谷本社長。
10年前、業界最年少の38歳で「現代の名工」の表彰を受け、技能五輪全国大会1位など受賞歴は多数。その卓越した技術で、文化財の修復から花器などの工芸品作りまで幅広く手掛けている。
「墓石に特化した石材業界は墓石や庭の灯籠などの需要が減り、業界の先行きは明るくない。しかし墓石ではなく、石材業界として考えればまだまだ需要はあり、夢もある。店を支えてくださるお客さまの気持ちに応えるためにも、今後も他業界とのコラボや海外への市場進出にもチャレンジしたい」と力強く語った。
2025年1月25日付884号18面から