【伊賀名所シリーズ 今と昔⑤】
戦国時代の連歌師・能登永閑が著した「伊賀國名所記」に江戸後期の入交省斎が注釈を加えた「標注伊賀名所記」には、伊賀の名所を上空から見下ろしたように描いた絵が添えられている。江戸時代に紹介された伊賀の名所が現在はどうなっているのか、上空からドローンで撮影し、比べてみた。
三重県伊賀市市部の「垂園森(たれそのもり)」と「哀園森(あわれそのもり)」。いずれも小さな森だが、古来より多くの和歌に詠まれてきた歌枕の地だ。1971年には市指定文化財になった。
清少納言の「枕草子」には「たれその森」とあり、日本の代表的な森の一つとして挙げられている。他に紀貫之、西行、後鳥羽上皇など平安から鎌倉時代にかけての著名人が歌に詠んだ。
標注伊賀名所記は、2つの森と付近の集落を南上空から眺めた構図で描かれ、付近の様子は今と大きく変わらない。右の垂園森の前には灯籠があり、小川と橋も確認できる。
垂園森の中には社があり、今年7月には地元住民らによる社殿改修が竣工した。大正から昭和にかけて建立された西行や紀貫之の歌碑、服部土芳の句碑も残っている。絵図にあった小川と橋は、現在はなくなっている。
ボランティアで掃除をしながら森の情報をインスタグラムで発信している地元の中森美也子さん(53)は「子どものころは森で同級生たちと走り回って遊んだ。ここに来ると、いろんなことが思い出される。当時はまだ小川があり、せせらぎが聞こえた」と話した。
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