季節や行事に合わせ
三重県伊賀市上之庄の岡波総合病院で、季節の行事に合わせて入院患者らに提供しているこだわりの手作りデザートが好評だ。患者からは「おいしくて元気が出た」「最高のごちそうだ」など、たくさんの手紙が厨房に寄せられている。
同病院では元々、行事の際には旬の食材を採り入れた食事に手書きのカードを添え、デザートは既成のものを提供していたが、栄養士の山田博子さんが昨秋の敬老の日を前に「デザートにもっとこだわりたい」と提案した。
山田さんの頭の中には、同僚の調理師、浅香知奈美さんの顔が浮かんでいた。製菓衛生師の有資格者で、過去に山田さんがプライベートで栗を炊いて渡したところ、おいしいパウンドケーキにしてくれたことがあった。そのため、「この力を職場で生かしたい」と密かに考えていたのだ。
他の仲間たちにも思いを伝え、部署全体の協力を得ることに成功。敬老の日には、イチジクを飾った手作りプリンの提供が実現した。その後も月見、ハロウィーン、クリスマス、節分、バレンタイン、ひなまつり、子どもの日、母の日、父の日、七夕など、月1回以上のペースで手作りデザートを提供し続けた。
山田さんと浅香さんに加え、管理栄養士の田代沙織さんが主にデザート作りを担当し、3人が専念できるよう周囲がサポートしている。絵や字が得意な職員は、デザートに添えるメッセージカードのデザインで力を発揮した。
「店で売るレベル」の見た目や味を目指し、色付けも野菜などの天然色素にこだわる。約300人の入院患者らに食べてもらうため、形や固さ、糖分を制限する必要があるなど、さまざまな配慮が求められる。特に飲み込みの障害のある患者に対しては、リハビリテーション科の言語聴覚士と試行錯誤しながら一つひとつ課題をクリアしている。
「しんどい入院、少しでもほっこり」
父の日には、ジョッキに入ったビールのような見た目のゼリーを提供。リンゴジュースと紅茶でビールの色合いを出し、泡はミルクゼリーで表現した。入院中で飲酒ができない患者たちは大喜びで、「早く退院して本物のビールを飲むぞ」と回復への思いを強くしたという。
今度はクリスマスに向けて準備しており、山田さんは「しんどいこともある入院生活だが、皆さんに食事を通じて少しでもほっこりしてもらえたら」と思いを語った。