【馬の餌になる芋の皮。人気の干し芋と芋のババロアを持つ杉岡代表(左)と営業の北道香代子さん】

 廃校になった滝之原小学校(三重県名張市滝之原)の給食施設を市の交付金も活用して整備し、2017年に開所したイーナバリ株式会社の農産加工所では、これまで地元農家が出荷できず捨てていた規格外の農産物をジャムやレトルト食品などに加工し、地域ブランド商品として販路を広げている。SDGsの「持続可能な開発目標」12番目の「つくる責任 つかう責任」に通じる同加工所の、設立当初からの一貫した思いと活動の広がりを紹介する。

 杉岡雪子代表(52)は「地元の農家の方々が一生懸命作られたおいしい農作物が、形がそろっていなかったり完熟しすぎていたりして商品にならず、畑の肥やしになっている現状がある。おいしく食べられる旬の時期は短いので、加工品にして長持ちさせ、農家の課題解決と所得向上に役立てることが狙い」と設立の経緯を話す。

 加工方法は、天日干しや酢漬け、塩漬けによる菌の抑制技術など、昔ながらの自然なやり方が基本で、人工の着色料、香料、保存料などの添加物は使っていない。二酸化炭素の排出量が増える大規模な機械や設備を使った加工ではなく、手作業にもこだわっている。

 こうして作られる加工品は、受託(OEM=相手先ブランド)商品と自社オリジナル商品を含め700種類以上あり、レトルト食品、ドレッシング、乾燥野菜、ジャム、ペーストなどバラエティーに富む。

 最近では、市外・県外のレストランや農業分野に進出する企業など約100社からの受託があるものの、少ロット・手作業生産のため生産が追い付かず、食材の旬を逃してしまうジレンマもある。そこで、加工までの間、冷凍保存することでおいしさを保っている。

 現在の従業員は女性5人で、製造から商品企画、販売まで担う。受託が増えるにつれ、そうざい製造業、飲食店、密封包装食品、菓子、清涼飲料水などの各種製造許可を次々に取得してきた。

 干し芋を作る過程で出た皮は、捨てずに近くの乗馬クラブに馬の餌として提供し、シイタケや昆布を漬け込んだ後の搾りかすは佃煮に転用するなど、「もったいない」を徹底。杉岡さんは「処分するのは楽だが、上手に活用する方法を考え抜く。非効率でも収支バランスを考え、地域に貢献をするという機軸を守っている」と強調する。

母の影響受け

 そうした事業観は、杉岡さんの母・加藤富栄さんの影響が大きいという。加藤さんは50ほど年前に大阪から名張に転居してきた当初から、牛乳パックを再利用したり廃食油で石けんを作ったり、EM菌を使って生ごみを肥料にしたりと、徹底して実践してきた。杉岡さんは「幼い私には理解できなかったが、SDGsの最先端を走っていたと思う。加工所を始める時には背中を押してくれた」と振り返る。

 このほど発売したオリジナル商品「名張カレー」には、市内で採れたタケノコをたっぷり使用。同市の赤目地区では、竹林の保全整備の一環で間伐材を使って竹明かりを作り、冬の赤目四十八滝を彩っており、「タケノコをおいしく食べ、食の面から竹林保全に役立ちたい」という同社の思いが込められている。

 杉岡さんは「農家と加工所、それぞれに手間と時間を惜しまず作った商品ばかり。大量生産されたものより価格は若干高くなるが、〝地域応援価格〟と考えて頂き、大いに消費してほしい」と話した。

 問い合わせは同社(0595・41・1505)まで。

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