【自ら塗った土壁の前で道具を持つ世良さん】

 「もっと土壁の良さを知ってほしい」。三重県名張市富貴ケ丘の左官業、世良和也さん(47)は2008年、「土壁を塗りたい」一心で大阪から移住した。「土壁やしっくいは体に優しく、塗り方や色使いで今風の仕上がりにもできる」と、自然素材にこだわる理由を語る。

 堺市出身で、20代の初めのころ、親戚が勤めていた建設会社に入社し、コンクリートの壁塗りの仕事に携わるようになった。都会の現場はマンションなどのコンクリートの壁塗りがほとんどで、「変化が無く、画一的なものだったので充実感が無かった」と振り返る。

 そんなある日、土壁を塗る職人の姿を偶然テレビで目にし、「こんな色鮮やかな壁を塗ってみたい」と、左官職人を目指すことに。伝統工法を実践している会社を探し、名古屋などにある複数の建設会社で5年ほど経験を重ねた後、古い家屋が多い伊賀へ拠点を移した。土壁塗りの技術を学ぶため、同市阿保の城哲一さん(故人)のもとへ通い、壁土の特性や伝統的な技術を教わった。

薬師寺東塔修理に参加

 09年から10年にわたって行われた奈良・薬師寺東塔の全面解体修理には、18年から1年半、全国から集まった5人の職人とともに、古い土壁を解体し完全修復するという作業にに参加し、貴重な経験も積むことができた。

 自然素材にこだわる理由は、風合いや仕上がりのことだけではない。「現場で出るごみの量をなるべく少なくしたい。セメントは余ったら捨てるが、土壁やしっくいはまた使えるから」と笑顔で語った。

 世良さんはインスタグラム(@sakan_sera)でも自身の仕事ぶりを発信している。

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