【名張市の出生数推移】

 三重県名張市内で唯一、出産を受け入れてきた診療所「武田産婦人科」(鴻之台1)が、来年1月中に分娩の取り扱いを中止することが分かった。同市は「産み育てるにやさしいまち」をうたってきたが、1月以降は出産できる医療機関がゼロになる。市内の出生数は2002年の741人をピークに減少傾向にあり、23年は過去最少の367人だった。

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市内の母親「存続願う」

 「まさか名張でお産ができなくなるとは」。7月に武田産婦人科で第2子次女を出産した名張市在住の森真未さん(33)は「地元で産むことができる安心感があっただけにショックが大きい。近くに産院がなくなり、何かあっても30分以上かけて移動しなくてはいけなくなるので不安」と話す。

 武田産婦人科については「本当に感謝している。3人目を考えていたが、どうしようかと。子の代まで取り上げてもらいたかったのに」と語った。

 その上で「『地元で産めるなら2人目、3人目を』という方が多い中、子どもを諦める人もいるのではないかと思う。今後も名張で分娩できる施設の存続を願う」と話した。

北川市長「状況重く受け止め」「対応策検討進める」

 北川裕之市長は、YOUの取材に対し書面で回答した。

 市内で出産できる医療機関がなくなることについて「産み育てるに優しいまちとして、子育て施策に力を入れている本市にとって、市内で出産できる医療機関がなくなることは、非常に残念な事です。以前から、武田先生とも会談し、ご苦労など聞かせて頂いておりました。先生にとっても苦渋の決断をされたのだと思います。全国的に出生数が減少しており、分娩施設のない市町村が増えている状況にあります。全国的な課題であるとはいえ、本市もこのような状況になってしまったことを重く受け止めています」とコメント。

 市の対応については「現時点では、詳細なお話はお聞きしておりませんので、早急に状況を把握し、具体的な対応策の検討を進めてまいります。何よりも、これから子どもを産む市民の方が安心安全な出産ができるよう、しっかりと検討してまいります」と回答した。

 市内の産婦人科医療を巡っては、亀井利克前市長が在任中に市立病院に産婦人科を開設する方針を示し、北川市長も選挙公約の一つとして産科設置を掲げたが、実現していない。

 市立病院の地方独立行政法人移行に向けた評価委員会で、市が8月1日に示した中期目標の素案には、「産科医療提供体制など、市が抱える課題解決に向けた医療施策については、今後も引き続き市、医師会などに協力し、検討すること」と盛り込んでいる。

全国で減少、出産できる医療機関

 出産ができる医療機関は、全国的に減っている。厚生労働省の資料によると、分娩を取り扱う医療機関数は1996年が3991施設だったが、2021年は1945施設と半減している。

 県によると、県内は30施設で、伊賀地域は武田産婦人科の他に2施設ある。14市のうち鳥羽市、志摩市、亀山市にはない。

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