【来年1月中に分娩の取り扱いを中止する武田産婦人科=名張市鴻之台1】

少子化影響 外来は継続

 三重県名張市内で唯一、出産を受け入れてきた診療所「武田産婦人科」(鴻之台1)が、来年1月中に分娩の取り扱いを中止することが分かった。少子化に伴う利用者の減少などが理由で、武田守弘院長(70)は「名張で子どもを産める場所を守ろうと手を尽くしたが、限界がきた。断腸の思い」と語った。妊婦健診や婦人科の外来診療はこれまで通り継続する。

これまで1万人が誕生

 武田産婦人科は1993年に開院。入院に対応するベッド数は14床を備える。これまでに産声を上げた新生児は1万人を超えており、近年は親子2代で出産する例も相次いでいるという。

 武田院長によると開院当時、分娩に対応する医療機関は市内で他に5か所あったが、10年ほど前に武田産婦人科だけとなった。分娩は予測ができず、母体の状況も変わりやすいため、夜間や土日も含め24時間365日、対応を求められる。

 武田院長は「責任は重いが、『おめでとう』と言える唯一の科。ずっと守っていきたかった」と話す。

「最後の分娩まで責任持つ」

 武田院長を支える体制も構築できていた。次女の志村真由子医師(39)は5年前から非常勤で勤務。兵庫県の病院で勤務していた長男の和哉医師(36)も昨年から名張に戻り、副院長に就任した。

 ところが、少子化に伴う分娩数の減少は予想を超えていた。年間の分娩取扱件数は、20年前は460件を超えていたが、コロナ禍の影響もあり、2022年以降は安定経営のボーダーラインの240件を下回るようになった。今年は8月現在で約100件と、更に落ち込んだ。

 苦境を打開すべく、ネット予約やキャッシュレス決済の導入、SNSでの情報発信、病室のリフォームなど改善を重ねてきたが、分娩数の減少には歯止めがかからなかった。厳しい経営状況の中、武田院長の体調面の不安も重なり、分娩を中止する苦渋の決断を下した。

スタッフも設備も充実なのに

 真由子医師は麻酔科標榜医でもあり、和哉医師は大規模病院の勤務医として最先端の産婦人科医療の現場に身を置いてきた。武田院長の妻で薬剤師の千鶴子事務長(68)は「やる気も能力もある医師や素晴らしいスタッフがそろい、設備も充実しているのに、この状況は本当にもったいない。しかし、最後の分娩まで責任を持ち、『武田で産んでよかった』と喜んで頂けるよう、スタッフ一同努力したい」と話した。

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分娩台の側に立つ武田院長(左)と妻の千鶴子事務長=同
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