「より良いものを作り続け、伊賀焼の魅力や火の良さを世界に伝えていきたい」。三重県伊賀市丸柱の窯元「圡楽」に勤務する阿久根尚さん(42)が今年2月、「伝統工芸士」に認定された。伊賀焼の伝統工芸士認定は12年ぶりで、若きリーダーの誕生は、産地に明るい話題をもたらした。
兵庫県出身の阿久根さんは、数年間の会社勤めの後、陶芸の仕事に就こうと20代後半から2年間、京都府内の専門学校で基礎を学んだ。江戸時代から続き、8代目の福森道歩さんが代表を務める同窯では土鍋のろくろ成形を任されている。
伝統工芸士は、工芸品産地の振興を目的に、経済産業省からの補助金で運営する一般財団法人「伝統的工芸品産業振興協会」(東京都)が認定する制度で、産地に住んで12年以上の実務経験を積み、産地固有の技術を身に着けていることなどが必要。筆記・実技試験と面接があり、昨秋に受けた実技試験の課題は土瓶作り。初挑戦だった阿久根さんは、成形から加色まで幅広い知識・技能が問われる総合部門に見事合格した。現在、伊賀焼の伝統工芸士は13人で、総合部門での認定は阿久根さんを含め3人。
「皆さんに感謝」
土鍋作りに使うのは粗めの粘土で、固さを均等にするよう菊練りし、手先の感覚を研ぎ澄ませてろくろを回すため、両手は「自分では感覚的に分からないが、厚みが増したと思う」という。6月下旬には加盟する伊賀焼振興協同組合の会合で認定証が披露され、「試験に向けて協力頂いた皆さんに感謝しかない」と話していた。
2003年に家業に入り、15年に父・雅武さんから代表を継いだ福森さんは「できた物や使う人が主役で、我々は裏方。でも、そこに作り手の意思が無ければ脚光を浴びない」と語る。阿久根さんには「真面目な性格で、真剣にものづくりに向き合っている。これにあぐらをかかず、職人の技を磨いていってほしい」と期待を寄せた。