【まげにはさみを入れた後、佐ノ山親方と笑顔で言葉を交わす濱野さん(提供写真)】

名張北中で柔道指導

 「17年間お疲れさま」。三重県伊賀市出身で昨年7月の大相撲名古屋場所で現役を引退した元幕内千代の国関の佐ノ山親方(33)=本名澤田憲輝=の断髪式が6月8日、東京・両国国技館で開かれた。名張市立北中学校の柔道部顧問として指導した恩師で、現在は大阪市内の私立高校教員の濱野博臣さんが出席し、土俵人生に区切りをつけた教え子の節目を見届け、思いを語った。

 断髪式は大勢の関係者やファンらが見守るなか、私を含め約500人がまげにはさみを入れました。最後に師匠の九重親方(元大関千代大海)が大銀杏を切り落とすと、涙をこらえきれずにしばらくの間上半身を突っ伏した後、姿勢を正し前を見据える表情からは「やりきった」という充実感や親方としての強い決意を感じました。

 空手の経験はありましたが、柔道は初心者でした。入部時に「卒業したら九重部屋に入って相撲をする。3年間思いきり柔道に打ち込みたい」と話していました。練習態度は真面目で、決めたことはやり抜く性格でした。

 めきめきと力を付け、3年時には主将を務め、団体戦では学校史上最高の全国16強の成績を残しました。試合や遠征先では関東や東海、関西の強豪校から素質を見込まれ、多くの誘いがありました。

謙虚さ気遣いずっと

 現役時は両ひざや肩のけがに苦しみ、関取の座から陥落することも経験しましたが、「不撓不屈」の精神で2度幕内への復帰を果たしました。連絡すると、「あっちこっち痛いです」とよく話していましたし、満身創痍で土俵に上がることも少なくなかったでしょう。でも「相撲を取りたくない」とは1度も聞いたことはありませんでした。

 気迫あふれる激しい突き押しの真っ向勝負で多くの人を魅了したことは言うまでもありませんが、謙虚さや相手への気遣いをずっと持ち続けていたからこそ、年上や年下に関係なく慕われたのだと思います。土俵の上で活躍する姿が見られないのは寂しいですが、九重親方を支えながら部屋付きの親方として若い力士の個性を見極めて伸ばし、千代の国のような力士が育ち出てくるのを楽しみにしています。

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