家族、バンド、教会のこと 思い込め執筆
1980、90年代に来日し、各地に定着したペルー出身者のその後をまとめた単行本「ペルーから日本へのデカセギ30年史」が2月初旬に出版された。10代で来日し三重県伊賀市で育ったオチャンテ・カルロスさん(43)、オチャンテ・村井・ロサ・メルセデスさん(42)兄妹も、家族を日本に呼び寄せた父のこと、地域でのよりどころでもあったカトリック教会のことなどを著している。
移民の第1、第2世代の体験や思いを形に残そうと、日本各地で活躍するペルー人と、長年移民を研究している日本人研究者が協力し、科学研究費助成事業として5年ほど前から計画されてきた。しかしコロナ禍で聞き取りや調査は難航を極め、対面での活動を避けながら、2人を含む7人が執筆を進めてきた。
現在は大阪府豊中市在住で、奈良学園大(奈良市)で専任講師を務めるカルロスさんは、2015年に亡くなった父ウィルフレッドさんの生涯、父とオチャンテ家を中心に編成されたフォルクローレ(南米の民族音楽)バンド「ワウヘミカンキ」の活動で感じたことなどを執筆した。
今も伊賀市に住み、桃山学院教育大(堺市)で准教授を務めるロサさんは、居場所としての教会の役割や、伝統的な宗教祭り「奇跡の主」が日本各地の教会やペルー人コミュニティーで行われていることなどについてまとめた。
ウィルフレッドさんは日本で、他の移民と同じく「うまくコミュニケーションが取れない労働者」としての生活を余儀なくされた。そんな中でも、支援してくれた多くの人たちとの出会いや環境のおかげで伊賀を「第二の故郷」と感じることができたという。
オチャンテ家は母方のルーツが日本にあり、カルロスさんは著書で「家族における移民の旅は日本から始まり、また日本にやってきた」と語っている。カルロスさんは「私も父親になり、父の人生を振り返れたことが自信になった」、ロサさんは「父に助けられた、励まされたという話を聞くことが多く、いかにカリスマ的存在だったかを日々認識している」と回想する。
地元で出版報告「恩返しの第一歩」
出版を記念し、カルロスさん、ロサさんと共著者たちが2月に伊賀市内でシンポジウムを開き、オチャンテ家を始め伊賀に暮らす外国籍の人たちを長年支えてきた「伊賀日本語の会」のメンバーらも出席。講演の他、フォルクローレの演奏なども楽しんだ。
今回の出版を通じ、カルロスさんは「30年以上生活してきたペルー人の存在は、伊賀市の歴史の一部。今後各地からの移民も増え、父のように家族のために一生懸命生活する人も増える。この本で移民したペルー人の生活について少しでも知ってもらえたら」、ロサさんも「多文化共生への理解は進んできたが、まだ否定的に捉える方もいる。少しずつ交流が生まれれば、互いの理解も増す。父がいつも口にしていた『伊賀人』としての誇りをこれからも大切にしたい」と思いを語った。
2人を始め、伊賀に暮らす外国出身者らを長年支えてきた「伊賀日本語の会」の菊山順子さんは「言葉も分からず日本にやってきた彼らが、思いを込めた本を出したことに感激している。彼らを育ててくれたのは、伊賀に暮らす人たち。これからは、受けた恩を周りの人たちに返していってくれるはずで、この本がその第一歩になると思っている」と感慨深げに話していた。
インパクト出版会(東京)から出版された書籍はA5版352ページで、日本語版とスペイン語版を1冊に収録した。価格は税込み3520円。伊賀地域では岡森書店白鳳店(伊賀市平野西町)で購入できる他、同出版社のウェブサイト、インターネット通販などでも取り扱っている。