自らの死後、社会貢献を目的に遺産を非営利団体などに託す「遺贈寄付」。三重県名張市に住む自営業の男性(79)が1月下旬、遺産を公益財団法人「日本盲導犬協会」(横浜市)に寄付するため、遺言公正証書の作成を終えた。男性は「これでいつ逝ってもいい」と安心した表情で話した。
男性は、20年ほど前に母親を亡くしてから一人暮らし。結婚歴はあるものの、子どもはいない。
終戦を迎える年、両親が婚姻関係にない「非嫡出子」として大阪で生まれた。5人の異母きょうだいがいるが、男性は「親父の葬式の時にちらっと見ただけで、ほとんど会ったことがない」と話す。男性が亡くなると異母きょうだいが相続人となるが、「盲導犬の育成のために使ってほしい」と遺贈寄付を決めた。
男性が死を意識したのは、50代の時に胃がんを患ったのがきっかけだった。手術は成功し、順調に回復したが、「俺が死んだ後、土地や家などはどうなるのか」と考えるようになった。10年以上の時を経てテレビ番組の特集で遺贈寄付を知り、興味を持ったという。
4年ほど前、酒を飲んでいた時に突然、脳梗塞を発症。入退院を繰り返すなか、男性が名張市の行政書士、松岡衣里さんの事務所を訪れたのは今年の1月上旬のことだった。
手続きを終えた男性は「ほっとした」と話した。寄付先を日本盲導犬協会に選んだ理由については「自分がもし目が見えなくなったとしたら、盲導犬の存在がどれほどありがたいか。一頭でも多い方がいいから」と語った。
遺言作成を支援した松岡さんは「心に思う人はいるが、(男性は)一大決心をして行動に移された。お話を聞いて感動した」と話した。遺贈寄付に興味を持つ人に向けては「地元に恩返しをする選択肢もある。これからもお手伝いさせて頂けたら」と話した。
【遺贈寄付】 遺言に基づいて財産の一部をNPO法人や公益法人、自治体などに寄付する仕組み。生前に贈り先や目的を定めておくことで「人生の集大成の社会貢献」ができるとして、関心度が高まっている。3月29日まで、遺贈寄付の遺言作成費用のうち5万円分を助成する「フリーウィルズキャンペーン」(日本承継寄付協会)がある。