【完成したレコードを手にする山浦さん。手前はハンドチャイムとCD=山添村で】

 奈良県山添村切幡の障害者支援施設「大和高原 太陽の家」で12年前、利用者によるハンドチャイムの即興演奏で、独創的なアンビエントミュージック(環境音楽)が生まれた。作品は後に、世界で活躍する音楽プロデューサーに評価され、3月下旬にアナログレコード「WaNoWa(わのわ)」として発売された。レコード人気が再燃する中、海外からも注目されている。

 同施設では2011年の東日本大震災をきっかけに、犠牲者への追悼や世界に向けた発信への思いから、一部の利用者で音楽表現に取り組むプロジェクトが立ち上がった。企画者は、職員で打楽器奏者の山浦庸平さん(46)=名張市在住=で、身体、知的、精神に障害がある50代から70代の男女12人が参加した。楽器は、片手で振り下ろすだけで音を響かせることができるハンドチャイムを使った。

 数か月の練習後、同年10月に施設内のホールで録音を行った。思うように腕を動かせない、体勢を保つことができない、物事への理解が苦手など、さまざまなメンバーが参加していたが、それぞれが一音一音、あるがままの思いを込めて音を鳴らした。強弱や間合いなど、メンバーの感性に委ねられた演奏により、二度と再現できない旋律が生まれた。

当時の録音風景(提供写真)

 録音した作品は当初、施設でCD化して自主販売していたが、21年に山浦さんと親交のあるプロデューサーから正式な商品化の勧めがあり、主宰するレーベルからのリリースが実現した。ジャケットには同施設の元利用者、古谷秀男さんの絵が採用された。

 山浦さんは「参加したメンバー以外には出せない音や間合いで成り立っている。この純粋無垢な音楽を多くの人に聞いて頂き、穏やかな時間を過ごしてほしい」と話した。

 レコードや同作のCDは、レーベル作品を扱う販売サイト(https://nxsshop.buyshop.jp/)から購入できる。

「持つ喜び」レコードの復権

 音楽を聞く方法は、1980年代にレコードからCDへと置き換わったが、2010年代以降は徐々にレコードの人気が戻っている。デジタル化で遠のいた「持つ喜び」が、世界的なレコードの復権を支えている。

 日本レコード協会によると、2022年の年間生産額は43億3600万円で、1989年以来33年ぶりに40億円を超えた。2020年と比較しても倍増している。

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