【夕暮れ時、多くの照明が点灯した上本町サンロード商店街のアーケード=名張市上本町で】

2月工事着手

 三重県名張市の旧市街地にある「上本町サンロード商店街」のシンボルとして50年近く歴史を刻んできたアーケードが、撤去されることがわかった。シャッターを下ろす店が増えるなか、老朽化で耐震性が危ぶまれ、商店主らでつくる上本町商店街振興組合が昨年10月、計画してきた解体の前倒しを決めた。2月初めから電気系統の工事が始まり、中旬以降解体に着手、4月末までに解体を終える予定だ。〈YouTubeで動画(https://youtu.be/nIOf1WBwqPA)〉

アーケード落成を祝う幕が掲げられたサンロード(1974年、上本町商店街振興組合提供)

 中心的なにぎわいから「名張銀座」と呼ばれた同商店街に、長さ約130メートルの市内初のアーケードが完成したのは1974(昭和49)年。「雨の日も買い物ができるように」と、総工費約6000万円、基礎工事から足掛け8年をかけ、開閉式天井や多数の装飾照明を備えた近代的なアーケード商店街「サンロード」へと生まれ変わった。当時は衣料品店、食料品店、自転車店、家電店、釣り具店、食堂、銭湯、銀行など40軒近くが立ち並んでいた。

 「何でもそろう場所だった。どの店も早朝から夜遅くまで営業し、年末や盆の人混みは本当にすごかった」。振興組合の理事長を2001年から16年間務め、父親の代から続いた衣料品店を18年末に閉めた中野光郎さん(87)は、往時のにぎわいに思いを馳せる。完成から約10年後の全面改修を記念し、アーケードの強みを生かして全店一丸となって始めたワゴンセールが特に印象に残っているという。

ワゴンセールに押し寄せた多数の客(上本町商店街振興組合提供)

 「『驚愕の5時間』などと銘打って年に3回ほど、平日の昼間から歩行者天国のど真ん中にワゴン台を並べ、仕入れ原価すれすれで各店が売り出した。人がどっと押し寄せ、押された台が動き出すほどで、空っぽになるまで飛ぶように売れた」と振り返る。「今夜は離さない」のキャッチフレーズで実施したナイトセールでは、屋台を並べ、人気家電などをたたき売り。抽選会を開いて当選者100人を石川県の温泉地へバス旅行に招待したこともあったという。

「今夜は離さない」のキャッチフレーズで実施したナイトセールのポスター(上本町商店街振興組合提供)

「シャッター街」

 次第に、自家用車での買い物が便利な郊外の大型スーパーの出店が相次いだり、旧市街地にあった市役所などが移転したりした影響を受け、バブル崩壊後の90年代半ばごろから商店街への客足は激減。更に商店主らの高齢化や後継者不足により、ここ数年で一気に「シャッター街」と呼ばれる状態になってしまった。

銭湯の看板や装飾照明

解体費積み立て20年 耐震性に不安

 商店街が往時の勢いを失いゆくなかで理事長になった中野さんは就任後、アーケードの将来を考えた積み立てを組合員に提案。来るべき大修理や解体を見据え、費用を貯める計画が始まった。

 2017年に理事長を継いだ保険代理店経営の田中正昭さん(75)はその翌年、震度5強の揺れに耐えられないなどの理由でアーケードの解体を決めた津市大門大通り商店街を視察。「サンロードのアーケードは、大門大通りの数年後に建設が始まった。屋根を支える柱の一部は根元が腐り、大きな地震が来たらとても持たない」と耐震性への不安を更に強くした。

錆びて穴が開いたアーケードの柱の根元

 組合員数は現在、37人だが、店を開けている人は10人程度。「維持費は、電気代や最低限の修繕費など年間60万円は下らない。開ける店が多ければ大きな修理をする道もあるが、現状ではとてもできない」と話す。組合が複数の業者に解体の見積もりを取ったところ、どこも2000万円を超える額を提示。積み立てで全てまかなうには、26年までかかると想定していた。

 ところが昨夏、比較的安い見積もり額を提示する業者が現れ、積立金の範囲内での解体に見通しが立った。組合は、解体を3年ほど早めることを決めた。

 田中さんは「お客さんのことを考えたら撤去しない方が良いとも思うが、耐震性の不安も大きい。非常に寂しいが、商店街がシャッター通りになるなか、タイミングは今しかない」、中野さんは「雨風を防ぐアーケードのおかげで、長い間助けられた。本当はみんな壊したくないと思うが、維持も限界。泣く泣く決めた」と話した。

 アーケード撤去後、組合は解散に向けて準備を進めるという。

訪れた人々の記憶

上本町商店街と市内外とを結んでいたボンネットバス(上本町商店街振興組合提供)

 「何でも買えるので、行くのが楽しみだった」。曽爾村の男性(66)は、小学生のころから親と一緒にボンネットバスに乗って訪れたという。「名張川の花火や、蛭子神社の参拝の帰りに寄るのがいつもの流れだった」

 「スーパーにはない、個性的なものであふれていた」。20代の時に大阪から移住した名張市桔梗が丘2の女性(82)は、子どもがふすまを破るたびに紙を買いに訪れたという。「服屋さんに入ると『こんな新商品が入ったよ』『これは奥さんには似合わないよ』なんて会話で退屈しなかったわ」

 「昭和の雰囲気がとても素敵だが、寂しい感じもした」。一昨年の春に同市に移住した男性(35)は、間もなくアーケードに足を運んだ。「商店街の入り口などの写真を撮り、改めて夜に訪れると、また違った魅力に気付いた。いつまでも残るといいのにな」

宇流冨志禰神社の秋祭りでにぎわうサンロード(2022年10月30日撮影)
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