【跡地にARで表示した夏見廃寺の復元BIMを紹介する桑山さん=名張市夏見で(タブレットのスクリーンショット)】

 建築業界で普及が進む設計ソフト「BIM(ビム)」を使い、三重県名張市夏見の国史跡・夏見廃寺を仮想空間上に3次元で復元する取り組みを、同市富貴ケ丘4の屋根工事業「桑山瓦」が進めている。社長の桑山優樹さん(37)は「BIMによる史跡復元は、地域の魅力の再発見につながる」と語る。

 BIMは「ビルディング・インフォメーション・モデリング」の略。コンピューター上に建物の3次元モデルを作成し、個々のパーツにも材質や寸法、コストなど、従来のCGよりはるかに多くの情報を付加できる。設計から施工、維持管理まであらゆる情報を一元管理でき、近年の建築業界では従来のCADシステムに代わって主流になりつつある。作成したデータはVR(仮想現実)やAR(拡張現実)にも活用できる。

 神社仏閣などの瓦屋根施工を父親とともに手掛けてきた桑山さんは、津市の寺の工事に携わった20代半ばの時、自身の図面作成能力の未熟さを痛感したという。「昔ながらの瓦屋では駄目。何とかしなければ」と考えを巡らせていた時、京都・銀閣寺の保存工事でCGが駆使されていたことを知り、「これだ」と直感。専門学校で技術を習得し、2016年に社内に新たな事業部門「ワイクウーデザイン」を立ち上げ、BIMを活用したビジネス展開を進めた。

 そんな中、専門学生時代にBIMが建築業だけではなく地域の史跡にも活用できることに気付き、復元にBIMを活用する「史跡復元BIM」の概念を作った。18年からは、仕事の合間に地元の夏見廃寺をBIMで復元する作業を進めた。

地域の史跡に興味を

 建物が現存しない史跡はあらゆる地域にあるが、石碑や礎石が残るだけで普段はほとんど人がいないことが多い。桑山さんは「このような『何もないようにみえる史跡』も、BIMでさまざまな情報とともに仮想空間上に3次元で復元できる。元の状態をイメージできるようになり、地域の史跡に興味を持つきっかけになる」と語る。

 夏見廃寺は7世紀末から8世紀前半に天武天皇の娘・大来皇女(おおくのひめみこ)が建立し、10世紀末ごろに焼失したとされる古代寺院。男山の南斜面に位置し、発掘調査で金堂、塔、講堂、掘立柱建物の遺構が検出された。礎石が残る跡地は史跡整備されている。

BIMで復元した夏見廃寺の3次元画像(提供)

 桑山さんが作る夏見廃寺のBIMモデルは、これまでに金堂と講堂が完成。資料館貯蔵資料や調査報告書などを基に、広島県の知人と当時の様子を視覚的に議論するなど協力しながら進めている。スマートフォンを使って現地をスキャンした3Dの地形データと組み合わせる新しい取り組みもしている。既に一部をVRで体験したり、現場の礎石の位置と合わせてARで表示させたりできる。

夏見廃寺の復元ARの専用QRコード

 桑山さんは「BIMは現存しない建物をありありと再現できるだけではなく、さまざまな情報を一つに集めて総合資料データにできる。よく『地元には何もない』と口にする人がいるが、実際には貴重な史跡があり、バーチャルで再現することで更に活用することができる」と話す。今後も、文化財保存の専門家らにもBIMの活用を呼び掛けていくという。

 桑山さんが手掛けた夏見廃寺の復元ARは、スマートフォンアプリ「STYLY」をダウンロード後に専用QRコードを読み込み、現地の金堂跡南西端の礎石を起点に起動すると体験できる。

2022年3月26日付816号20、21面から

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