仕事も趣味も「粘り強く」
「家電修理人」としてテレビなどで紹介され、国内外から修理依頼が絶えない、三重県津市美杉町太郎生の電器店「今井電子サービス」の店主、今井和美さん(62)。仕事の傍ら、ふとしたきっかけで始めた趣味、「東海自然歩道」の山歩きで、念願としてきた大阪から東京までの踏破を約25年かけて達成した。仕事も趣味も「粘り強さが大切」と語る。
東海自然歩道は、大阪府箕面市の箕面山と東京都八王子市の高尾山とを結ぶ、11都府県にまたがる全長1697・2キロの自然歩道で、太郎生地区は大洞山・倶留尊高原コースが通る。今井さんは子どものころに興味を抱いたが、いつしか忘れていたという。
30代半ばを過ぎたころ、書店で偶然、東海自然歩道を全踏破した人の著書を手に取った。「たまには運動しようかな」。好奇心がよみがえった今井さんは、まずは太郎生から西、奈良県曽爾村を目指して歩き始めた。数時間後にたどり着いた曽爾高原で見た景色は一段と美しく、大満足して同じ道を引き返したという。
まずは西へ 次は東へ
「もうちょっと歩いてみよう」。曽爾から宇陀市の室生へ、桜井市の初瀬へ。続きの地点までは車で行き、15キロから20キロほど進んでは同じ道を引き返す。仕事の合間に、月1回から数か月に1回程度、気が向いた日に再開し、地図には歩いたルートを黒く塗っていった。やがて黒線は大阪府まで伸び、箕面山に到達したのは55歳の暑い夏だった。
「次は東だ」。スタート地点は再び太郎生となり、今度は北東へ青山高原、霊山、余野公園と進んだ後、信楽方面の支線を埋めてから岐阜県を目指した。岐阜市内では復路で急な降雪に見舞われ、山道から見えた施設で暖かそうに夕食をとる人をうらやんだが、近づくとそこは刑務所だった。愛知県に入るころには、日帰りでの行程が難しくなり、温泉旅行も兼ねた。このころから、本業の家電修理でテレビ出演が増え、「山道を歩きながら『足が離せない』と携帯電話で打ち合わせをした」と振り返る。
静岡県藤枝市に到達した59歳の春、ついに富士山が見え、ゴールの高尾山を意識するようになる。神奈川県では、知らぬ間に約20匹のヤマビルがズボンに入り込み、両足が血だらけに。鹿やイノシシ、蛇に出会ってもうまくやり過ごしてきた今井さんも、ヒルには懲り懲りだったとか。「初めにヒルと出会っていたら、ここまで歩いてなかった」と苦笑する。そして昨年12月29日、ついに念願の高尾山に到達できた。
「とてつもなく長い道のりだったが、なんとか達成できた。山歩きも家電修理も、共通するのは、僕が一度始めたら諦めが悪いということだ」と笑った。