「全員が輝き、力を出し切れるような指導者に」。20代半ばまで陸上競技の長距離選手として活躍した名張市桔梗が丘出身の佐藤雄治さん(33)は今春から、自動車ばねメーカー「中央発條」(本社・名古屋市)の陸上競技部コーチを務める。年初の「ニューイヤー駅伝」15位以内という目標に向け、選手11人の育成やチームの魅力発信に注力している。【岐阜県高山市の高地合宿施設「スポーツインオラ」周辺のロードコースでの練習でタイムを測定する佐藤さん(右端)(いずれも提供写真)】

営業職経て増えた交流

 小学生のころはサッカーもしていたが、兄姉とともに松阪市内であったマラソン大会に出場し、1年生から学年別で毎年優勝。上野工(現伊賀白鳳)高3年時には全国高校駅伝で6区を任され、区間7位の走りで5位入賞に貢献した。

佐藤雄治さん

 平成国際大(埼玉県)では2年から4年まで、関東学連選抜の一員として箱根駅伝に出場。3年時の選抜チームを率いていたのは、後に箱根駅伝3連覇などで一躍時の人となる青山学院大の原晋監督(53)だった。

 普段一緒に走ることの少ない選手たちとの信頼関係の築き方、個々に合った具体的な目標設定など、間近でその指導を受け、「ワクワクさせてくれる指導者の姿」を見たという。前年の箱根駅伝は19位から約5分半離された最下位だった選抜チームは4位に躍進し、佐藤さんも6区2位と快走した。

 卒業後は、足先の神経障害が痛みを引き起こす「モートン神経腫」のため手術も経験し、選手生活はわずか2年で終えたが、「悔いは無かった」。引退後は静岡、愛知の社会人チームで指導し、陸上を離れて営業職の生活も経験。「これまで関わりの無かった人や企業間の交流が増え、大きなプラスになった」と感じている。

 今年のニューイヤー駅伝では37チーム中31位と、全64回中37回の出場を誇る古豪も「これまでは『出場できれば良し』という感覚だったのでは」と佐藤さんは感じた。来年は中部ブロックの出場枠が7から6に減るため、出場権獲得はより難しくなる。今年3月に初マラソンで2時間12分台をマークした高校の後輩・坂田昌駿選手(26)、同10分台の吉岡幸輝選手(23)らを中心に、選手たちのコンディションづくりに注力しながら士気を高めている。

Jリーガーの兄ら活躍刺激に

 佐藤さんいわく、プロ野球やJリーグのように、地元に「ホームタウン」「ホームチーム」の意識を醸成するのは容易ではないという。「成績が良かった時には注目してくれる、ではなく、選手たちやチームを知ってもらえるよう自ら発信していかないと」。着任後、選手にスポットを当てた広報紙の作成や社会貢献活動などを積極的に企画している。

 同学年でプロ転向した川内優輝選手(33)と、デンソー時代に指導した侑子さん(34)夫妻とも交流がある。「尊敬しているが、負けたくない存在」という3歳上の兄・健太郎さん(36)は、サッカーJ2山口でプレーする現役Jリーガーで、「異なる競技だからこそチームづくりやコンディショニングなどで話が弾む」といい、周囲のアスリートの活躍も刺激になっている。

2020年8月29日付778号1面から

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