松尾芭蕉の生誕地・伊賀市と芭蕉翁顕彰会は10月7日、第73回献詠俳句の特入選428作品を発表した。命日の今月12日に上野公園の俳聖殿前である芭蕉祭式典で表彰される。

 投句数は一般の部8312句、テーマの部1828句、児童生徒の部2万4355句、英語の部712句、連句109巻、絵手紙915点。同顕彰会によると、昨年は伊賀地域にある高校からの投句はゼロだったが、今年は市内の上野高と伊賀白鳳高から計1101句の応募があり、名張青峰高(名張市)からも516句が寄せられた。

 英語の部には日本を含む28か国から投句があり、米国108句、クロアチア66句、日本62句、英国59句、ルーマニア49句の5か国が上位を占めた。学校全体で俳句創作活動に取り組み、その成績が特に顕著だった学校に対する三重県知事賞は地元の伊賀市立神戸小と上野高がそれぞれ受賞した。

 各部門の特選句は次の通り。敬称略。

◇一般の部◇
【有馬朗人選】
歎異抄手擦れてゐしが黴びてゐず (大阪府豊中市、小畑晴子)
能面を打ちたる人と春惜む (奈良県平群町、濱坂みち子)
【稲畑汀子選】
玉虫を拾ひ蓑虫庵に腰 (大阪市、田島もり)
蕉風を今に伝へて翁の忌 (神戸市、池田雅かず)
【茨木和生選】
瓜坊の猪突猛進あなどれず (兵庫県宝塚市、廣田祝世)
花万朶夜は無人となる島の (北九州市、永田英子)
【宇多喜代子選】
手話の指清流となり鮎となり (愛知県東海市、加藤久子)
鐘一打千の屋根越え暮の秋 (群馬県藤岡市、原美知子)
【小澤實選】
鱧の皮たまり醤油の香ばしよ (東京都品川区、蔵田かをり)
蠅虎妻遅き夜の敷布替へ (千葉市、左官屋宇兵衛)
【黒田杏子選】
けもの道四辻のあり滴れり (山梨県山中湖村、朗善千津)
大南風転任の地へわづかな荷 (名古屋市、井上美保子)
【坂口緑志選】
あかぼしの残る斎庭に茅の輪結ふ (伊賀市、永井みよ)
夕星や縁に忘れし水鉄砲 (伊勢市、森下充子)
【塩田薮柑子選】
山開き案内板の真新し (静岡県伊東市、深澤美智)
空白の句帳虚ろに炎暑の夜 (伊賀市、山下葉苗)
【棚山波朗選】
宇治川の闇を曳きゆく鵜飼舟 (奈良市、渡辺政子)
待つほどに闇のととのふ薪能 (奈良市、池田雪彦)
【西村和子選】
辿り着き双手に受ける岩清水 (津市、小林美智子)
ポケットに貰はれてゆく子猫かな (愛知県大府市、井村晏通)
【長谷川櫂選】
藍といふしづかな色の浴衣かな (横浜市、三玉一郎)
手花火やてんでにあはれ照らしゐる (群馬県藤岡市、丸山直樹)
【星野椿選】
百選の水の都の夏料理 (伊賀市、松村咲子)
水よりも水色濃ゆき額の花 (明和町、木戸口眞澄)
【正木ゆう子選】
目で追って揚羽と時間共有す (愛知県常滑市、竹内重美)
雀の子飛べぬと見せて飛び立てり (横浜市、秋元正)
【三村純也選】
いそいそと下ろす紅緒の踊下駄 (名古屋市、村田和司)
翔び立ちし蛍の匂ひ手に残る (兵庫県西宮市、杉﨑よしこ)
【宮坂静生選】
大空の資源は無尽鰯雲 (東京都世田谷区、石川昇)
赤翡翠これが最後の一目惚 (東京都小平市、後藤行雄)
【宮田正和選】
おうおうと山の神呼び山開き (伊賀市、西野登志子)
初蝶のふれ合ひて風かがやかす (伊賀市、福田容子)

◇テーマの部=「朝」◇
【片山由美子選】

南朝の黒木御所跡蟬しぐれ (奈良市、渡辺政子)
朝涼や筧を落ちる水の艶 (岐阜県本巣市、加藤万亀子)

◇児童生徒の部◇
【保育所(園)・幼稚園、小学校1~3年=下村哲朗、土井陽代、浜地和恵、藤井充子、山村勝子共選】

あめあがりにじのいりぐちおいかけて (伊賀市、中瀬城東保育園、福田千晴)
こんにちはへんじがないぞかかしかな (伊賀市、古山保育園、辻美羽)
ぱんとしてふうせんかずらのたねをとる (伊賀市、ゆめが丘保育園、里奨真)
ゆうすずみしながらとどけるかいらんばん (伊賀市立友生小学校1年、山中理愛)
かたつむりしゅうごうばしょでみつけたよ (伊賀市立成和東小学校1年、松島綾音)
はつぼんのてつだいわたしふきんほす (伊賀市立阿山小学校1年、森川雛名)
えん天下けり上げきめたはつゴール (伊賀市立上野東小学校2年、西山誠剛)
気がつくと生まれていたよメダカの子 (伊賀市立上野西小学校2年、中林将也)
ミニトマトべんとうばこでひかってる (伊賀市立上野西小学校2年、中村裕大)
水着にも海の思い出持ち帰り (伊賀市立久米小学校3年、中森大愛)
台風でしんぱいしてる通学路 (伊賀市立三訪小学校3年、花本祥稀)
夏休みホテルのまどは海いっぱい (東京都江東区立扇橋小学校3年、鈴木凜)

【小学校4~6年=喜多冨美、坂石佳音、東構東子、福山良子共選】
ぼくを見る大きな目玉雨がえる (伊賀市立上野西小学校4年、片山蓮)
ひやけあとお父さんと同じあと (伊賀市立友生小学校4年、松本樹南)
さくらちるランドセルへとさくらちる (伊賀市立柘植小学校4年、菊地王芽)
イノコヅチ私の服をししゅうする (伊賀市立西柘植小学校5年、橋口仁侑子)
夕立がすぎてまもなくはくちょう座 (伊賀市立島ケ原小学校5年、谷岡宙星)
白い月ホタルの光りにげていく (オーストラリア、メルボルン国際日本語学校5年、跡部連)
せみの声心拍音と同化する (伊賀市立上野西小学校6年、長谷淳史)
面ごしの剣先にじむ夏げいこ (伊賀市立府中小学校6年、辻井直樹)
石きりが遠くへ飛んで夏の川 (伊賀市立柘植小学校6年、安村明日翔)

【中学校=岡島千秋、北村みち、島井節、西村八洲子共選】
稲をかる祖父のかたからバッタとぶ (伊賀市立城東中学校1年、峯山友愛)
草けってバッタは宇宙目指すかな (伊賀市立霊峰中学校1年、青山佳樹)
爽やかや襞スカートが風になる (東京都文京区 お茶の水中学校1年、土谷吏俐子)
つり皮の手裏剣マーク梅雨じめり (伊賀市立城東中学校2年、東構美桜)
ししの子の二頭入るや朝のおり (伊賀市立上野南中学校2年、福壽悠仁)
万緑の山そびえたつ竹田城 (東京都港区 高輪中学校2年、佐々木悠)
キラキラと僕の竿から逃げる鮎 (大台町立宮川中学校3年、大森聖真)
青春の先頭を往く揚羽蝶 (名古屋市立供米田中学校3年、渡辺美愛)
夕焼に呑み込まれゆく港町 (福岡県糸島市立前原中学校3年、矢野駿太)

【高校=佐々木経子、永井みよ共選】
石橋や飲んで呑まれる秋出水 (上野高等学校1年、德田雄也)
いつも来る小鳥にあらず羽根の色 (伊賀白鳳高等学校1年、山本吏虎)
ボランティアして君の汗僕の汗 (東京都港区、麻布高等学校1年、土谷多央)

◇英語俳句の部◇
【河原地英武選・訳】

a small stone
the heat on my palm–
Atomic Bomb Dome
てのひらの小石の熱さ原爆忌
(Hiromi Yoshida Japan)

Rose of Sharon
blooming at the mountain pass
Basho once walked
木槿咲く芭蕉辿りし峠道
(Kyoko Shimizu Japan)

◇連句の部◇
【北原春屏、林転石、宮川尚子、西田青沙共選】    

半歌仙『早苗哉』の巻   愛知県 ころも連句会
               出原 樹音 捌

雨折々思ふことなき早苗哉     芭蕉翁
 一羽涼しく立てる白鷺       板倉  合
クレパスはスケッチブックいつぱいに 間瀬 芙美
 髭伸びてゐる父さんの顔      稲垣 渥子
トレーラー行く先照らす月丸く    石川  葵
 山積みにせし特産の柿       正村  有
二人して浅き夢見む秋遍路      平  羽州
 新妻の切る豆腐大きめ       出原 樹音
豊満な胸はモンロー顔負けで     坪井眞知子
 皮膚科で貰ふ亜鉛華軟膏      由川 慶子
ライオンが嗅いで悦ぶ象の糞         有
 休日電車着ぶくれの客           羽
月冴ゆるホルムズ海峡荒れ模様    長坂 節子
 雑音混じる短波放送        小野 芳梅
曾祖母の忌明けのお斎並びゐて    深津 明子
 窓を開ければ軟東風の吹く         渥
石段を登る坂道花万朶            芙
 里の子どもと遊ぶのどらか         羽
  
      令和元年六月二十五日 満尾 豊田市福祉センター

◇絵手紙の部◇
【森田満枝、福北辨選】
(伊賀市立久米小学校3年、井田瑛大)

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