松尾芭蕉の生誕地として知られる伊賀市と芭蕉翁顕彰会は10月6日、募集していた芭蕉翁献詠俳句など特入選959作品を発表した。そのうち、特選は一般とテーマ、児童生徒、英語俳句、連句の各部で71作品、絵手紙の部で1点選ばれた。特選句は10月12日の命日に上野公園（同市上野丸之内）の俳聖殿前で開かれる第71回芭蕉祭で披講、献額され、来月12日に萬寿寺（同市柘植町）である「しぐれ忌」でも掲示される。
応募数は一般の部8821句（昨年比237句減）、テーマの部2152句（同311句増）、児童生徒の部2万5276句（同84句増）、英語俳句の部467句（同594句減）、連句の部131巻（同12巻減）、絵手紙の部689点（同98点減）だった。児童生徒の部は保育・幼稚園が20施設、小学校が市内全21校を含む44校、中学校が市内全10校を含む28校、高校が市内のあけぼの学園高を含む6校から寄せられた。
学校全体で俳句創作活動に取り組み、その成績が特に顕著で優秀な学校を表彰する「三重県知事賞」は小学校の部が依那古小（伊賀市沖）、中学校の部が阿山中（同市千貝）で、2校とも地元から選ばれた。英語俳句の部には国内を含む22か国から句が集まり、海外からはオーストラリア62句、ルーマニア46句、アメリカ43句、セルビア39句、クロアチア38句が上位を占めた。
特選句は次の通り。敬称略。
◇一般の部◇
【有馬朗人選】
雁渡る天平よりの踏鞴吹 （仙台市、荒木那智子）
掘串持ち籠持ちほまちの若菜摘む （奈良県大和高田市、久保田珠生）
【稲畑汀子選】
筒鳥の遠ざかりゆく象の宮 （堺市、徳澤南風子）
夏の月仰ぎて又も庭を歩す （伊賀市、藤井充子）
【茨木和生選】
船渡御の大阪締めに櫂揃ふ （京都市、栁田絵美）
田を植うる深き谷まで下りて行き （東京都多摩市、田中久幸）
【宇多喜代子選】
水中に風や琉金よろめける （鈴鹿市、浜西修）
乾坤を分け立ち上がるどんとの火 （群馬県藤岡市、木下薫）
【小澤實選】
千鳥塚暑し翁の文字の矍鑠と （東京都八王子市、村田さやか）
電気柵に猿の悲鳴や南瓜無事 （長野県大町市、竹村翆苑）
【鍵和田■子選】■は「禾」に「由」
原発の町去る無念草引けり （東京都町田市、小田中柑子）
背泳ぎの車輪の腕や雲白し （千葉県浦安市、松本美智子）
【黒田杏子選】
日本の良心何ぞ原爆忌 （大阪市、橋本薫）
東大寺御用紅花伊賀に摘む （伊賀市、西田尚子）
【坂口緑志選】
金婚の旅路白夜の茜濃し （伊賀市、西田尚子）
きららむし這ふ組紐の設計図 （愛知県江南市、山口南海子）
【塩田薮柑子選】
古民家の豪商偲ぶ夏座敷 （兵庫県姫路市、藤本柊花）
葉桜になりてベンチに深む黙 （伊賀市、長谷川梅香）
【棚山波朗選】
春禽のしきり蓑虫庵しづか （伊賀市、佐々木経子）
しつけ糸解く晴着や菊日和 （広島市、土居直子）
【西村和子選】
地蔵盆正座の子等のあしのうら （愛知県半田市、矢浦みち子）
泳ぎ出で天の高さを知りにけり （奈良県斑鳩町、日比野勇）
【長谷川櫂選】
地に投げて地を引くごとく独楽廻す （愛知県半田市、桑田隆行）
冷奴どこを割ひてもわが昭和 （青森県むつ市、畑中継雄）
【星野椿選】
麦秋や伊賀に始まる翁径 （愛知県常滑市、磯村久市）
一番茶風の青さの中に摘む （徳島県鳴門市、三栖秋茄）
【正木ゆう子選】
強力の荷より取り出す鏡餅 （埼玉県所沢市、逸見彬有）
小春日や抱かれて子は充電す （兵庫県姫路市、土井君江）
【三村純也選】
毛虫とる箸の先までこはばりて （堺市、内田陽子）
夜の秋の虚子を話題に酌み交す （奈良市、渡辺政子）
【宮坂静生選】
畳這ふ蟻の足音楸邨忌 （埼玉県春日部市、小柳満）
塗師蔵にさざめく漆木の根明く （長野県松本市、大野今朝子）
【宮田正和選】
摩文仁野の松に潮鳴る沖縄忌 （沖縄県豊見城市、古波蔵里子）
池に浸す献氷祭の御榊 （伊賀市、箱林のぶ子）
◇テーマの部＝「日」◇
【片山由美子選】
一日にして成る一村の植田かな （茨城県牛久市、笹野泰弘）
教室に子ら駆け込めり日雷 （伊賀市、服部登紀子）
◇児童生徒の部◇
【保育園（所）・幼稚園・小学校1～3年＝北村保、北村みち、佐々木経子、西村八洲子、松本ちい共選】
げんじ蛍光るおしりをこっつんこ （伊賀市、ゆめが丘保育所、瀧口万智）
けいさつかんふゆのせいふくかっこいい （伊賀市、白鳳幼稚園、中尾寛太）
痛いなぁチクチクきゅうり持てないよ （伊賀市、ゆめが丘保育所、橋本莉緒）
すずしげにせいざしているばしょうさん （伊賀市立上野西小学校1年、繁地瑞樹）
じてんしゃでにゅうどうぐもへじゃんぷする （伊賀市立上野西小学校1年、西尾修一朗）
たいふうのひとつめこぞうおおあばれ （伊賀市立成和西小学校1年、おくむらりょうだい）
はつぼんのおまいりわたしの赤いじゅず （伊賀市立上野西小学校2年、辻岡明莉）
みそしるにぼくのオクラが入ってる （伊賀市立友生小学校2年、脇坂弥希）
打ち上げた花火がむねにとびこんだ （伊賀市立依那古小学校3年、森おかみちる）
ベビーカーおしてる人の麦わらぼう （伊賀市立上野西小学校3年、森岡千晶）
ブランコで遠くのひまわり見つけたよ （伊賀市立三訪小学校3年、阪口めい）
【小学校4～6年＝下村哲朗、土井陽代、浜地和恵、藤井充子、山村勝子共選】
ぼくが手で植えた田んぼの稲にもほ （伊賀市立友生小学校4年、廣澤一晟）
父さんと指さしさがす白鳥座 （伊賀市立上野東小学校4年、曽和こころ）
炎天下勝負に負けて出るなみだ （伊賀市立成和東小学校4年、並川百那）
俳聖殿うらの木の根に梅雨茸 （伊賀市立上野東小学校5年、中井とあ）
川の水せきとめあゆのつかみどり （伊賀市立上野西小学校5年、前田愛奈）
母の日にかわいいピアスプレゼント （半田市立有脇小学校5年、藤澤柚希）
盆おどり指さきかざす夜の空 （伊賀市立友生小学校6年、橋本星七）
優勝を仲間とつかみ汗光る （伊賀市立上野東小学校6年、槇野愛美里）
とんぼとぶそらに向かってボールける （伊賀市立西柘植小学校6年、杉野綾星）
【中学校・高校＝喜多冨美、坂石佳音、永井みよ、東構東子、福山良子共選】
カランコロンのぞいてみたよラムネ玉 （伊賀市立島ヶ原中学校1年、梶川陽向）
かがり火と鵜匠の烏帽子風にゆれ （伊賀市立崇広中学校1年、磯尾和希）
直売所富士山見ながら桃試食 （伊賀市立崇広中学校1年、德井快香）
見上げれば夏草の中廃校舎 （伊賀市立阿山中学校2年、長谷唯由）
カタコトの英語でかわす夏の海 （宇陀市立室生中学校2年、服部あきは）
時を継ぐ祭り道具の土用干し （伊賀市立崇広中学校2年、鶴田開土）
指揮棒が導く夏のファンファーレ （伊賀市立霊峰中学校3年、中村宝寿）
庭先にトトロのようなほうき草 （伊賀市立城東中学校3年、森美奈実）
サンダルのかかと鳴らせば夏来たる （津市立南が丘中学校3年、勝井七海）
走り出す海に向かひて咲く■瑰 （愛知県立安城高等学校3年、角谷天海） ■は「王」に「攵」
春深し葉書の余白を埋める夜 （福岡県立修猷館高等学校3年、雪吉千春）
ヨットの帆風と期待をゴールまで （愛知県立碧南高等学校1年、岩月愛望）
◇英語俳句の部◇
【加藤耕子選・訳】
The war end day―
A young soldier's will says
"I will be a star."
終戦忌星になるてふ兵の遺書（自訳） （清水京子、日本）
tinder-dry heathland
cracked hooves of wild ponies
exploding seedpods
種薯割る野馬のひづめ荒野地帯 （シェイラ・K・バークスデイル、イギリス）
◇連句の部◇
【青木秀樹、靜寿美子、鈴木漠、西田青沙共選】
半歌仙『夏羽織』の巻（千葉県 俳諧コミューン、鈴木美奈子捌）
別ればや笠手に提て夏羽織 芭蕉翁
そっと空蝉包む掌 鈴木美奈子
写真展町家の■並べゐて 松澤 龍一 ■は「木」に「兌」
煙草輪に吹く芸のひとつと 奈
スコップを傍らに置き眺む月 白石 一有
夜食はラーメンライス大盛り 龍
秋簾よぎりし影はくの一か 奈
海馬に納む企業機密を 有
踏まれたし真っ赤に尖るピンヒール 龍
ため息の度好きと言はせて 奈
客見ればいつものですねお燗番 有
昏き三和土に鶴が機織り 龍
月に舞ふ雪と遊ばむ北の宿 奈
夢見心地に仰ぐ曼陀羅 有
新設の獣医学部は何処へやら 龍
納税期でも署はひと気なく 桜田 野老
成田屋のはっしと睨む飛花落花 龍
紙風船に七彩の宙 老
平成二十九年七月二十四日 満尾 喫茶ルノアール
◇絵手紙の部◇
（愛知県刈谷市、堀記子）
